Racing Diary 2004's Race

2004 鈴鹿8時間耐久ロードレース

2004年7月22~25日 三重県 鈴鹿サーキット

HOME > レース活動のレポート一覧 > 2004年7月22~25日:鈴鹿8時間耐久ロードレース

北川圭一/藤原克昭、3位走行中もアンラッキーなラジエタートラブルに泣く!

北川圭一ピットにて

  こんにちは ケンツART0123 MOTUL スズキ G'ZOX の北川圭一です。

しばらくご無沙汰していますが、7月末におこなわれた鈴鹿8時間耐久ロードレースのご報告をしたいと思い、レースレポートをお送りさせていただきました。

■去年のリベンジと、決勝への準備

  昨年の8耐といえば、トップを独走していながら残りあと1時間というところでマシントラブルが発生し、本当に大きな忘れ物をした大会になってしまいました。全日本のシリーズではチャンピオンを獲ることはできましたが、やはりどうしても、あの耐久の悔しさとやり残し感といったら……。ですから、今年も昨年同様、 ワールドスーパースポーツを走っている藤原克昭と組んで、同じ体制でリベンジを誓う大会となりました。  このレースには、アート引っ越しセンター、それにG‘ZOXさんもサポートしてくださることになり、いよいよ狙いは優勝一点のみ。今年は、カツアキのレーススケジュールの関係もあって、早くからカツが来日できたことで、マシンセットアップの擦り合わせもタップリできました。これも、かなり大きなポイントでした。

  というのも、1台のマシンを2人で乗る耐久の場合、 セットアップの擦り合わせはかなり重要なんです。特に、カツは普段GSX-R600で世界選手権を走っているし、僕はずっとJSB1000。今回はスーパーバイクで出るということもあって、まずはスーパーバイクとしての完成度をキチッと上げて、 それからふたりのセットアップを擦り合わせなければならなかったんですが、これがかなり上手くいったんです。

  サスペンションのセッティング、車体の仕様や姿勢など、カツと僕とでは、速く走るためのセットアップの好みがかなり違うんですが、それを鈴鹿で、そしてスズキのテストコースでタップリ走りこめたこともあって、最終的にはほとんど同じ仕様のマシンで同じタイムが出る、という理想的なセットアップに仕上げることができました。

  正直、昨年はこの点が上手くまとまらなかったこともあって、カツに僕のセットアップで乗ってもらい、どうしてもガマンを強いてしまった。それでも、今年は僕がカツのマシンに、カツが僕のマシンに乗ってもほぼタイムが同じ。これが、事前テストから決勝レースまでうまく展開していたチーム状態でしたね。 ただ、意外な敵も出てきました。それが、今まで体験したこともないような暑さと路面温度です。気温は40℃に限りなく近づき、路面温度はもうすぐ60℃! 普段は路面温度が50℃にもなるとヤバいくらいなのですが、これにはダンロップのエンジニアさんも手の施しようがない、という状態でした。なんせ、マレーシアGPがおこなわれるセパンの路面より熱いんです。 この温度は、ひょっとしたら史上初めてじゃないか、ってことでした。   

■決勝の周回タイムを考えた予選の進め方

  鈴鹿入りしてから決勝レースまでは、フリー走行、予選、そしてスペシャルステージと、ひたすらタイヤのチョイスと、路面に合わせた車体のセットアップを詰めていました。決勝がこの温度でずっと続くということは考えられなくても、いざそんなことがあったらどうする、という準備をしておくのも、耐久の重要な準備だからです。

  この温度レンジならこのタイヤ、これくらいになってきたらこれ、とどんな状況になっても対応できるように、たっぷりタイヤチェックはしましたね。木曜のフリーで、50℃を越える路面温度に合った車体のセットを見つけたと思ったら、路面温度が下がったらとたんにタイムが出なくなる。車体のセットアップって、それくらいシビアなものなんです。
  予選タイムは、1回目に僕が2分11秒363、カツが11秒280。ここまでがふたりとも新品タイヤのアタック。タイヤは、予選と決勝を通じて10セットしか使えないので、8時間で8セットを使うため、予選までに使えるタイヤはココまで。そのため中古タイヤを使った2回目は、僕が12秒403、カツが11秒962と、ちょっとカツにタイムで先行されましたが、 ふたりともすごくタイムが揃っていて、これこそ、今大会のテーマにしていた展開でした。 夜間走行でも、最後の夜パートを走るカツが13秒177と、とにかく決勝のことを考えての準備ができました。

ピットワーク  

  一発のタイムアタックより、とにかく決勝のことを考えてのセットアップとタイヤ選び。計時予選は5番手。けれど、極端な話し、土曜のスペシャルステージでグリッドが決まるのだから、計時予選はスペシャルステージを走れる20番手以内に入っていればOKでした。 それだけ、決勝のことだけを考えての予選の進め方でしたね。 スペシャルステージでは、僕が2分10秒896、カツが11秒302で、スターティンググリッドは7番手。これも十分です。問題なくいいスタートが切れる位置につけることができました。ここまでで、決勝までの準備はすべて終了。

  いよいよ長かった準備期間を経て、決勝レース。耐久の準備、マシンのセットアップと言うのは、いくらやっても完璧、ということがないのですが、やれるだけのことはやりました。あとは当日のコンディションと、なにごともなく走りきるのを祈るだけです。 去年の大会で、本当に最後まで何があるか分からない、ということを身を持って知りましたから、油断せず、安心せず、最後まできちんと予定通りに走りきるだけです。

■レースを左右した、ふたつの事件

  明けて、いよいよ決勝日。天候は雲が多く、このウィーク中、朝の気温はいちばんラクでした。でも、もちろん十分に暑い(笑)。決勝日朝のウォームアップは中古タイヤを使っての2分12秒023。これも、ふたりとも揃ったタイムだということもあって、決勝への準備はOK。タイムアタックではなく、中古タイヤで、当日の気温でのこのタイム、というのが重要なんです。もちろん、マシンのセットアップが完璧になるということはありませんが、あとは、決勝だけ!

  気温35℃、路面温度は46℃にまでなった午前11時半――。スタートライダーは僕。鎌田学、宇川 徹のセブンスターホンダのコンビが1-2でスタートしていって、僕もすぐに3番手に。1周目からすぐに宇川がトップに出て、僕は3番手。でも、2周目の逆バンクで鎌田君を抜いて、2番手に上がりました。やっぱり路面温度とタイヤがピッタリは合わなかったからか、多少マシンに違和感はあるものの、とにかく宇川君について行くしかない。けれど、2分11秒台でタイムをそろえていく宇川君に対して、僕が12秒~13秒。やっぱりホンダは速い! でもなんとしてでもついて行く!と思っていた矢先に、このレースを決定付ける事件が起こってしまいました。

  9周目、僕の後ろで3番手争いをしていた鎌田君が転倒。ハルクプロの安田君が僕に仕掛けてきたあたりで、コース上に転倒したマシンが止まってしまって、レースは中断、セーフティカーが入ってしまったのです。セーフティカーは2台。その片方が、なんと僕の前にいる安田君の目の前に滑り込んできたのです。

  ??? ということは? セーフティカーが入ったということは全車追い越し禁止。けれど、前のライダーとの差は詰められるので、順位はリセットされるはず。けれど、僕と安田君の前に1台入ったということは、2番手以下が順位変わらず、すべて間隔が詰まるのと同時に、トップを走る宇川君はどんどん逃げてしまう!

2番手を走行していたが、

  結局、セーフティカーがいたのは13分間。ほんの5周ほどの間でしたが、トップの宇川君との差は、セーフティカー前が10秒ほど、なのにセーフティカー解除後は1分にまで広がってしまいました……。

  しかも、セーフティカーがいるスロー走行中にタイヤが冷えたのか、ここからペースがすっかり上がらなくなってしまいました。12~13秒で走っていたというのに、セーフティカー解除後には15秒――。順位も一時は6番手まで下がって、1回目のライダーチェンジになりました。

  そして、ここでもうひとつの大事件が起こってしまいました。僕とカツは、チェンジペダル操作が逆パターンで、僕がいわゆるレーサーパターンの1up5down、カツが市販車と同じ正チェンジの1down5up。この差を解消するために、チェンジペダルに切り替え用のレバーをつけて、ライダー交代のたびにロッドを上下させる機構をつけていたのですが、このレバーのつまみがポロッと取れてしまったんです。つまり、僕用のレーサーチェンジのまま固定されてしまって、カツは不慣れなレーサーチェンジで走らなければならない……。テスト中、一度も起こったことのないトラブルでした。

  しかし、ここからカツが踏ん張ってくれて、ぐんぐん順位を上げ、30周目にはセブンスターホンダ、ヨシムラに続く3番手に浮上。カツも、タイムをバラつかせながら懸命に走ってくれて、いいポジションまで追い上げてくれました。

  1回走行を終えて、体調は十分。走行を終わって、体じゅうの熱を取るのにプールに入って、それからライダールームで休憩をすると、次の準備まで正味30分ほどしか休めないんですが、体調は万全。これほど暑くなかったとはいえ、ル・マンで2時間連続走行をしたことを考えれば、体調はぜんぜん心配ありませんでした。

  カツと交代して、2回目の走行。このあたりでレースはずいぶん落ち着いてきて、コース上は周回遅れだらけ。コースコンディションも、いたるところにオイル染みとか汚れ、ブラックマークがついていて、いつものつもりで走ると、足元をすくわれそうになることが多い時間帯。順位はセブンスターホンダ、ヨシムラに続く3番手をキープして、4番手の岡田さん/長純組の阪神タイガースホンダを引き離せていました。トップと同一周回はこの3台だけ。2番手ヨシムラまで50秒、そこからトップまでさらに1分の差はありますが、レースは最後まで何があるか分からない、と自分に言い聞かせて走り続けました。

  カツにバトンを渡しても順位は3番手のまま。4位には浜口君/森脇君のウィダーホンダ学園が上がってきても、4番手までの差は十分。そして僕の3回目の走行では、コースコンディションの悪さに体が慣れて、路面温度も落ち着いてきたことから、僕のペースはまた上がりました。2回目の走行では13秒から15秒のバラツキが、12秒から13秒のペースでコンスタントに周回することができる。初回走行のときに1周だけ出した11秒台も出て、ペース、体力とも上々。とにかくヨシムラとホンダを追いかけるだけ、というレースを続けていました。

  カツにバトンを渡して、いつものように休憩。まだあきらめない、まだ何があるか分からない、と気持ちは落ちていませんでした。マッサージを受けて、休憩して、栄養を取って――。さぁそろそろ最後の走行に向けて着替えるか、といったころ、ライダールームのモニターにカツの姿が映し出されました。

■そしてとうとう苦悩の決断を――

  順調に周回するカツ。けれど、シフトダウンのたびに、スロットルをオフにするたびに、マフラーから白煙が出ている! その白煙は、走ることにどんどんハッキリ見えるようになって、とうとうカツの後ろが真っ白、というところまで見えるようになっていました。カツは緊急ピットイン。予定より5周くらい早くマシンがピットに帰ってきました。

  とにかく現状がどうなっているのか、マシントラブルなのか、すぐに修復できるのか、そしてどうなってしまうんだろうという不安を抱えたまますぐに着替えて、ピットに駆けつけました。マシンのそばで修復を待っているカツに症状を聞くと、だんだんパワーが出なくなって、そのうち異音が聞こえ始めて白煙に気づいたらしい。メカのみんなも懸命にチェックと修復をしてくれて、約20分後に僕にライダーチェンジ。大きくタイムロスしてしまったけれど、とにかく最後まで走りきろう、順位はそれからだ、と気合を入れなおしてコースインしました。

気合を入れなおしてコースイン

  けれど、やっぱりエンジンの調子はおかしい。パワーがないし、カツの言うように異音も聞こえ始めてきた。そのうち、オーロラビジョンに写る僕のマシンが、やはりマフラーから白煙を吹き出しているのが見えてしまいました。 万事休す――。コントロールラインでオレンジボールを出されてしまい、マシンはピットへ。僕たちは残りゴール1時間半前にリタイヤとなってしまいました。

事前テストもタップリやって、マシンもいい状態に仕上がっていた。走りにも十分気をつけて、慎重に周回を重ねた。 うまくトラブルや接触、転倒もなく、レースはあと半分、あと3時間、あと2時間――。なのに、リタイヤしてしまいました。トラブルの原因は、ラジエター破損によるエンジンのオーバーヒート。ラジエターからエンジン冷却水が漏れ、カラ炊きのまま走行を続けていた状態だったようです。もちろん、だれも責められない、誰の責任でもない、テストでも出なかったトラブルでした。

  なんだろう、耐久となると、やっぱり上手く行きませんね。途中から、上位2台に離されて、でも表彰台は見えると走り続けたレースでした。

  2位のヨシムラを追いかけて、最後まで何があるんだから分からない、と気持ちを切らないようにしていたレースでした。準備もうまく行ったし、マシンの完成度も高かった。カツとのコンビネーションは、今大会に出場しているチームの中でも、すばらしく上手く行っていたと思います。

  けれど、やっぱり運なのなか、と思います。  8耐は、実力も大事だし、 レースまでの準備も、レース中にアクシデントにあわないように慎重に走るのも重要ですが、やっぱりラッキーが必要なんです。レースは何があるか分からない――。

  よく言われるこんな言葉を、またも噛み締めることになった今年の8耐でした。本当に残念でした。

  誰も責められないけれど、悔しいし、応援してくれたたくさんのファンの皆さんや、鈴鹿のグランドスタンドに陣取ってくれていたケンツ自慢の大応援団、そしてこのケンツをサポートしてくれたスポンサーの企業の皆さんと、本当に優勝の喜びを分かち合いたかった。 応援していただいて、本当にありがとうございました。

  けれど、これでくよくよしてばかりいるわけにはいきません。9月には全日本も再開するし、ル・マンに続いてボルドール24時間耐久に出場することも決まりました。このレースには、8耐ではライバルだった、ヨシムラの渡辺 篤と、もうひとりフランス人ライダーとトリオを組んでの出場です。こうなったら、ル・マンに続いて24時間耐久2連勝!と行きますか!

  たくさんの応援、本当にありがとうございます。

  これからもよろしくお願いいたします。

2004年8月
ケンツART0123MOTULスズキG'ZOX
北川圭一

<<次のダイアリーへ | 前のダイアリーへ>>